データを標準化し、収集、活用する
コロナにより日本人駐在員が帰国するなどし、海外の日系企業にとって現地化は喫緊の課題になっています。通常であれば日本本社から内部監査に定期的に訪れるといった風景も、コロナ禍では難しくなり、リモートでどのように内部統制を利かせるかも新たな課題となりました。 グループ企業の海外子会社の会計に関しては、会計システムも各国バラバラであることも多く、月次の業績報告や定期の連結決算のための必要なデータは収集しているものの、会計データをタイムリーな経営判断や内部統制のために全グループ的に収集し、活用している企業はまだ少ない印象です。現地法人単体で見ても、財務部と営業部、製造部などそれぞれ独自のフォーマットでデータを作成し、それらが結びつかずに混乱を招いている例も見られます。経理担当者が会計システムから財務情報をアウトプットする際、読みづらくなかなか分析に活用できるものになっていない場合もあります。 一方で、BIツール(Business Intelligence:データを可視化するツール)のようなデータ分析に役立つ機能は進化しており、標準化されたデータが常時収集できれば、それを活用して即座にデータの分析ができ、いろいろな判断や方針の決定をスピーディーに行うことができるようになっています。 1. データを可視化し、標準化する BIツールを使うにしろ、エクセルを使うにしろ、まずは分析をする目的を設定し、収集するデータを特定します。一連の流れの中で重要でかつ難しいのがデータを標準化する作業のように思います。標準化の前には現データの可視化がありますが、そもそもデータがなかったり、信頼性が低かったりなどの要因で、多くの企業がこの時点で断念してしまうのではないかと思います。経験の長い担当者であるほど、「業務手順自体を変更しないとできないので依頼されるようなデータの収集は無理」と言ってくることもありますが、標準化を徹底する過程が結果的には良いデータの収集だけでなく、業務効率や統制レベルを高めることに貢献します。 2. 標準化したデータを収集し、分析する 次に、標準化したデータを収集したうえでBIツールやエクセルに落とし、⾃動的にデータの分析を⾏えるようにしていきます。最近の会計システムは分析に必要なコードの設定や出力がフレキシブルに行えるようになっていますが、各機能があまり活用されていないことが多いように思います。各担当者が特定されたデータに関する情報をルールに沿って漏れなく入力するのを継続することが重要です。 3. 分析結果を経営判断に役立てる 分析されたデータに対し、モニタリングまたはどの基準で詳細分析・調査を⾏うかを設定します。リモートで管理する場合、予めアラートとなる数値(乖離の許容レンジや異常値の定義など)を決めておき、その数値を超える場合には現地の担当者に調査、報告することを求めてもいいかもしれません。 会計はこれまで正確に記録することが重視されてきましたが、今後はデータを活用した経営判断が企業の競争力を左右する要素になり得ます。財務データに限らず、会社はいろいろな角度で多くのデータを作成、保有していますが、そのデータを⼗分に活かしきれていない会社が多いように思います。DX(デジタルトランスフォーメーション)と言われる時代ですが、それは現データの「可視化」「標準化」なしに行うことはできません。不正防止の観点では、現地の責任者は、モニタリングすべきポイントは感覚でも理解されていることと思います。小さなスコープで継続できることから始めていく取り組みをお勧めいたします。