移転価格税制のアップデート
2023年に入り、内国歳入庁(LHDN)は移転価格税制に関する規則、ガイドラインのアップデートを行いました。今回は実務上重要となるポイントをまとめます。 1. 移転価格文書の種類 マレーシアの移転価格文書(ローカルファイル)は、親会社やグループ会社など関連者との取引額がある場合に作成する義務がありますが、下記のように売上額と関連者取引額の規模により、フルスコープもしくは簡易版の作成を選択します。簡易版テンプレートは昨年公表され、中小企業等の移転価格文書作成に対する負担を軽減するためスコープを絞ったものになります。 LHDNは、企業が自身の文書作成要否について判定できるよう、判定フローチャートを作成しウェブサイトに公開しています。移転価格文書の作成を怠ったことが税務調査等で判明した場合、2万~10万リンギの罰金が課されることになっています。 Transfer_Pricing_Documentation_TPD_Flowchart.pdf (hasil.gov.my) 2. 移転価格税制の新規則(2023年版) 2012年の規則以来となる新規則は23年5月に公表され、23賦課年度から適用されます。新規則の主な変更点は下記のとおりで、より詳細な移転価格文書の作成が求められています。企業グループ等に関する情報は、親会社が作成する「マスターファイル」の内容とも重複しており、マスターファイルとの内容に相違がないよう親会社と連携した作成が必要になります。 3. 移転価格文書(簡易版)の作成要領 簡易版テンプレートは22年11月に公表されましたが、今年になりその作成要領が公表されています。テンプレートは、①会社の基本情報、②企業グループの情報、③関連者取引の情報、④関連者取引の価格算定方針、の項目で構成されており、各項目についてどのような情報を記載すべきかの具体的なガイドラインになります。会社は関連者取引を開始した賦課年度の法人税の申告期限までに作成し、その後は毎賦課年度にレビューを行い、重要な変更があれば変更があった賦課年度の申告期限までにそのアップデートを行います。 移転価格文書に関するアップデートは度々掲載していますが、法整備はここ数年で順次進められており、移転価格税制の国際的な動きとともに税務当局が注力している税制であることがうかがえます。多くの日系企業が親会社をはじめとするグループ会社との取引がある中で、フルスコープの文書を作成する会社においては新規則に沿った文書を準備し、簡易版を作成すべき会社は簡易版の作成を怠ったことで安易にペナルティが課されることのないように準備をしておくことが重要です。