2022年度 予算編成に向けての税の方針(2022 Pre-Budget Statement)
財務省は、10月末に発表予定の2022年予算の編成に向けての方針を8月31日に発表しました。今回は、その中から税に関する概要についてまとめます。 1. 2021年予算の現状 コロナへの対策に追われた2021年は、過去最大となる3,225億リンギ規模の予算が組まれました。その中で、税収予測はGDP(国内総生産)の10.3%にあたる1,621億リンギを予定していましたが、今年7月時点での徴税達成率は57%(922億リンギ)となっています。税収を含めた上期の歳入は前年同期比で4.6%増となりましたが、一方で追加刺激策により歳出は5.7%増加しています。結果として、当初5.4%を目標としていた財政赤字のGDP比率は6.5~7%に修正され、財政赤字は拡大しています。 IMF(国際通貨基金)が予測しているマレーシアの2022年経済成長率は6%となっており、マレーシア中央銀行が下方修正した2021年の成長率3~4%と比較しても伸びが予想され、経済回復によりある程度の歳入増加は見込めるものの、徴税と課税システムの強化を進めることにより税収を安定化したいとしています。 2. 徴税強化のための戦略 2021年以前の予算において、既に課税ベースを広げることで国民から広く税収を上げられるような対策が徐々に講じられており、具体的には関税の対象品目拡大や、観光・宿泊税(Tourism Tax)の導入、移転価格文書の未作成に課されるペナルティ、などが始まっています。本方針では、引き続き課税ベースの拡大を進めること言及したうえで、2022年予算に向けては下記を検討しているとしています。 (1) 間接税の自主申告プログラム(SVDP:Special Voluntary Disclosure Programme) SVDPは、2019年予算で行われたもので、2018年11月から約一年の間に、過去において税を申告していなかった、もしくは過少申告していた納税者が自主的に申告を行えば、調査で把握された場合より低いペナルティが課されるというプログラムで、当時は所得税など直接税に対して行われました。今回は、関税やSST(販売サービス税)などの間接税に対して同様のプログラムが行われることが計画されています。 (2) 税務コンプライアンス証明(TCC: Tax Compliance Certificate)の義務化 政府プロジェクトへの入札などを行う企業に、その企業が税務コンプライアンスを遵守していることの証明を提出することを義務化するものになります。 (3) 納税者番号登録の推進 2020年予算において、18歳以上の全マレーシア人に対し納税者登録の義務化を打ち出しましたが、その更なる徹底と脱税などの分析に活用を広げるとしています。 3. 課税システム強化のための戦略 中長期的に課税システムの強化を達成するために、下記の取り組みを行うとしています。 (1) 各税務インセンティブの見直し 政府は国内外の投資家に向け、マレーシアへの投資に対する税務インセンティブを設けていますが、マレーシアが今後も国際競争力を維持できるよう、ビジネスと経済情勢の変化に呼応したインセンティブの見直しを行うとしています。これには、国際的な税の協調要請への対応や、実務的なところでは税務インセンティブを巡る税務訴訟などの増加を防ぐための税務行政の強化も含まれます。 (2) 中期的な税収強化戦略(MTRS:Medium-Term Revenue Strategies) 政府は、GDPの成長率に比例して税収を上げられるような戦略を練るために、財務省を主導とした戦略チームを立ち上げ、税のポリシーと行政、法規制の3つの観点から議論を継続しており、その大綱は来年公表されるとしています。 コロナによる移動制限で税務署の窓口が限定的になり、税の還付が遅れるなど税務行政も停滞していましたが、コロナが落ち着けば課税当局は実質的な徴税強化に向けて動くことが予想されています。企業は、過去の税務申告の内容や、グループ間取引にかかる源泉税の納付など、重要性の高いものを改めてレビューしておくことが推奨されます。